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サラーフ・マハディ著「アラブ音楽」は好評発売中 ! !

楽器のいろいろ
アラブ古典音楽の代表的な楽器を紹介します。ウード、ナイ、カヌーン、バイオリン、リク、ダルブッカの6種。各楽器の音が聴けます。アラブ音楽のこと、楽器のことを書籍でお知りになりたい方は、
S・マハディ著『アラブ音楽』をご覧下さい。



ウード(リュートの祖先でもある撥弦楽器。バチで弾く。)
ナイ(葦製の笛。ノンリード。斜めに構えて吹く。)
カーヌーン(チター属の撥弦楽器。両人差し指に爪を付けて弾く。)
バイオリン(西洋の楽器が逆輸入された。奏法や調弦は異なる。)
リク(タンバリンの一種。手に持って叩く。)
ダルブッカ(ゴブレット型の片面太鼓。膝に乗せて叩く。)




ウード写真
ウード

アラブ古典音楽で用いられる木製の撥弦楽器。その歴史は古く、ササン朝ペルシャの楽器バルバトがその前身とされる。またウードは、ヨーロッパのリュートの直接の祖先でもある。横板がなく背面部が大きく膨らんだ胴、フレットのない指板を持つ短い棹、後ろに折れ曲がった糸倉、ヴァイオリン属の様な直付けの糸巻、ギターのような緒止めを兼ねた駒(ブリッジ)、透かし彫りのある三つ(またはひとつ)の響孔を持つ表板、といった形状を持つ。

各楽派、国、地方によって形状が異なるが、さらに微妙な形状や装飾にいたっては一台ずつ個性を持つと言って良い。エジプトのものは全長、弦長共に長めで、胴は深く黄金虫型で、装飾が多い。シリアのものはエジプト同様装飾的で大きい涙型。トルコのものは涙型で、装飾がない。表板にニスを塗布しないのも今日のトルコ・スタイルの特徴である。イラクのものは涙型で大きくて重く、やはり装飾が少なく、響孔に透かし彫りがない。そして、緒止め板はマンドリンのように胴の下端にあり、表板に駒が乗っている(フローティング・ブリッジ)。なおチュニジアには伝統音楽マルーフで使用される、4コースのウードがある。

ウードの弦長は60cm内外。複弦で5コースまたは6コース。頻度は多くないが7コースも使用される(ナスィール・シャンマはファーラビーの本にある8コースのウードを復元した)。6コースのものの場合、第6弦のみ単弦で張るのが一般的。1930年代ナイロンの出現以前はガット弦や絹弦を使用したが、今日ではナイロンの裸弦と巻弦の組み合わせが普通である。調弦は完全4度が基本で、エジプト楽派の5コースの場合1C-2G-3D-4A-5G(または5F)、6コースの場合1C-2G-3D-4A-5G-6D(または5F-6C、5G-6C)が一般的である。イラク楽派は1G-2D-3A-4E-5D-6A(または6G)、または1F-2C-3G-4D-5C-6G(または5A-6F、5C-6Fなど)と、前者に比べて4-5度高く、高音域での演奏に向いている。これは伝統的なアラブ音楽の中で、ウードのスタイルが歌曲の伴奏を中心に展開してきたのに対して、現代イラクでは特に器楽としての独奏スタイルが発達したという事情から来る。

細長い撥(リーシャ)で演奏する。独奏、合奏及び歌曲の伴奏に用いられ、アンサンブルでは主に中・低音部およびリズムを受け持つ。アラブ古典音楽の基本楽器で、古くから理論の基準にされ、アル・ファーラビー(870-950)によるウードを用いた理論書がある。またアラブ音楽の基本楽器として、クラシックにおいてすべての楽器及び声楽を勉強するものは、最初にウードで基礎を学ぶのが常である。

CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」ライナーノートに加筆訂正。写真はアリ・スリティおよびアブデルハミッド・ハッダード製作のウード。エジプト・スタイルのモデル、チュニジア製。松田嘉子所有。


ウードの音を聴く(1'00") Free RealPlayer
演奏 : アデル・サラマー(CD「ソロ・アデル・サラマー」より)

大阪日日新聞・日曜朝刊文化欄《楽喜》2003年5月18日 ウード編(松田嘉子)

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ナイ写真 ナイ

ナーイとも表記。葦製の笛。フルート、尺八と同様、ノン・リードの管楽器である。アラブ音楽の中でもクラシックのジャンルに用いられる。ソロおよびアンサンブルで使われるが、通常オーケストラで二人のナイ奏者は存在しない。独奏楽器として活躍する一方、華やかな装飾とともにアンサンブルの高音部を担い、多彩な音色を持った表現豊かな楽器である。

ナイは斜めに構える。息ビームが唇の中央から出て、正面にある歌口のエッジ部分に当たって音が出るという点では、フルートや尺八と同様(エアリード方式といわれる)であるが、ただし、フルート、尺八のエッジ形状が唇に対して平行、つまり横方向とすると、ナイにおいては垂直、縦方向である。息ビームがエッジに当たって上下に分かれるか、左右に分かれるかの違いである。唇の形は、敢えて例えるなら、口笛を吹くときの形を少し横方向に広げたような感じである。なお、構えた方向に口を曲げたりはしない。歌口は筒状で、同じ楽器を、右利きの人は右に、左利きの人は左に構えて演奏することが出来る。

奏法上の特徴に、尺八のメリ、カリのように頭の角度を変えて音程を低めたり、高めたりすること(ただし横に振る)があげられる。アラブ古典音楽はきわめて微妙な音程を表現するため、それぞれの楽器はその点において高い自由度を持つが、ナイも例外ではない。先に述べたメリ、カリ以外にも、息の強さ、唇の動きで大きく音程が変化することから、その自由度はフレットレスのウードと正確に同調するのに十分なものがある。ただし、自由度が高いということはすなわち楽器の難易度が高いということに他ならない。「ナイは耳が半分」と言われる所以である。

音域は約3オクターヴ。第1オクターヴは、音量は小さいが深みのある音色。第2オクターヴは中心となる音域で、第3オクターブは、鋭く通りのよい音である。演奏テクニックは多彩で、ヴィブラート、トリル、ポルタメント、前打音その他、いろいろな装飾音をこなす。タンギングは約50%の音に行われる。

全長はC管(ドカー)で約60cmである。演奏家は歌手のキーやオーケストラのアレンジ上の都合によるあらゆる移調に備えて、少なくとも半音単位で、長いものはA管(カラル・マフール)から最短はG管(ジャワブ・ホセイニ)あたりまで11本前後揃える。特によく使うキーのナイは1/4音単位で準備する。

構造は両端とも開いた開管で、一本の素材で出来ており、ジョイントはない。ただし製作上の特殊なテクニックとして、歌口付近の半節分ほどを別に準備した葦のパートですげ替えたり、管長を調節する目的で各節間を短くして接いだりする方法がある。両端に糸や針金などを巻いて補強する。鍵はなく、直接音孔を指で塞ぐ。材質は葦で、自然に生息する葦を採取し、一定期間自然乾燥させ、その後穴開け等の加工行程に入る。

形態には規則があり、8つの節に仕切られた、9つのパートを持っていなければならない。歌口は片方の端にあり、縁を削ってエッジを形成する。ただし、奏法との関係で、尺八などのようにとくに歌口の一部を特殊な形状にしたりはしない。音孔は前面に6つ、背面に親指のためのものが1つ開けられている。音孔の位置で特徴的なのは、他の多くの笛と違い、足部側の半分に配置されていることである。音程は、足部側から数えて第1孔(親指)が長2度、第2孔(中指)が短3度、第3孔(人差し指)が中3度(長3度と短3度の間)、第4孔(薬指)完全4度、第5孔(中指)増4度、第6孔(人指し指)完全5度、そして全長のほぼ中央に開けられた第7孔(親指)は短7度と決められている。このような、4分音を含むほぼ半音階的な音孔の配置がナイの特徴である。

これには実は伝統的な位置決めの方法がある。まず中央背面に第7孔を開ける。そこから足部にかけて前面を4等分し、1/4および3/4の位置にそれぞれ第1孔と第6孔を開ける。つぎにその二つの間を3等分し、第3孔と第4孔を開け、第1孔と第3孔の間に第2孔、および第4孔と第6孔の間に第5孔を開ける。もっとも素材が自然のものである以上、一本一本形状が異なるため、正しい調律にはさらに微調整が必要である。

現代的な発想として、足部に小指用の小さい音孔を開け、半音を容易にした楽器もある。特殊な例としては、マフムード・アファットは同部分にキーを取り付けたものを使用した。

また、管を貫通するために、すべての節は取り除かれるが、歌口から第一節のみは、やや小さく穴が開けられる。一般に音孔と同径にするとされる。これは、高域の音程補正が主な目的である。同時に音色にも影響を与えており、一本一本ケースが違うが、第一節を完全に取り除くと、音程が悪くなるばかりか、音色も大味なものになる場合がある。

CD「チュニジアのナイ」ライナーノートに加筆訂正。写真はスラーフ・マナー製作のドカー(C管・左)、ナワ(G管・右)、チュニジア製。竹間ジュン所有。


ナイの音を聴く(0'27")
演奏 : スラーフ・マナー(CD「チュニジアのナイ」より)

大阪日日新聞・日曜朝刊文化欄《楽喜》2003年6月1日 ナイ編(竹間ジュン)

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カヌーン写真 カヌーン

カーヌーンとも表記。チターの一種の撥弦楽器。薄く平らな木製の共鳴箱の上にナイロン弦(以前はガット弦)をユニゾンで3本ずつGからDまで約3オクターヴ半、26コース張る。最低音部や最高音部においてそれぞれ巻弦、スチール裸弦を用いることもある。本体を専用のスタンドに乗せる。ひざの上に乗せて演奏するスタイルもあるが、音響的にはスタンドを用いた方が有利である。本体右部には駒が皮の上に立てられていて、弦の振動をボディに伝えている。左部には糸巻と、アルバまたはモンダルと呼ばれる金属のレバー付きの調整フレットがある。モンダルはエジプト式では6枚並んでおり、低い方から、一部を除いて四分の一音ごとに区切られている。よりシンプルな楽器には4枚(アルバ)というのも見かけるが、精緻なマカームを表現するには不十分である。マカームに応じて、左手でこれらのレバーを頻繁に立てたり倒したりして音程を変える。より迅速で臨時の操作が必要なとき、および装飾的表現のために、左手親指の爪で弦(モンダルの近く)を押し下げる。リーシャと呼ばれる爪をハラクと呼ばれる金属の輪で、両手人指し指に装着して演奏する。弦数が70本以上で調律にたいへん時間を要するため、アンサンブルではピッチの基準となる。マカームに合わせたモンダルの操作が極めて煩雑で、スムーズにマカームを切り替えることが出来るようになるには、かなりの熟練が必要。
なお、トルコのカヌーンはやや小型でモンダルの数は多い。


CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」ライナーノートに加筆訂正。写真はトルコ製の普及品。竹間ジュン所有。


カヌーンの音を聴く(0'30")
演奏 : ジャメル・アビッド(CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」より)

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ヴァイオリン写真 ヴァイオリン

アラビア語でカマンジャという。アラブ・スタイルのヴァイオリンは、楽器そのものは西洋のものと同じである。大演奏家はしばしばクレモナの名器を使っている。歴史的には、アラブの弓奏楽器ラバーブがアンダルシア経由でヨーロッパに伝わって、のちにヴァイオリンになったとする説がある。つまり今日では逆輸入されたということになるが、アラブ世界において、大々的にヴァイオリンが使われるようになったのは、エジプトにおいて19世紀末から20世紀前半にかけてと言ってよい。ソロ楽器としてはシリアのアレッポ出身のサミ・シャワ(1889-1965)が カイロでSP盤を録音したことで世界的に脚光を浴びた。ラバーブの代用品として登場したヴァイオリンも、今日では完全にそのポジションを取って代わり、古典器楽合奏においてラバーブが演奏される機会は少なくなった。今やヴァイオリンはアラブ音楽の花形楽器として君臨している。

調律は西洋式と異なり、上から1D-2G-3D-4G。ただし以前は1C-2G-3D-4G としていた。古い調律はウードの調律と類似していて、テトラコルドを基本としているため、アラブ音楽にとって合理的とされる。しかし近年のヴァイオリン奏者は西洋音楽も学び、その際は1E-2A-3D-4Gの調律で演奏する。そこで、アラブ式と西洋式の間で運指がスムーズに移行出来るという理由から、第1弦と第2弦の間隔を5度とした新しい調律が定着した。構え方はエジプト、チュニジアなど一般的には西洋式と同様左肩に乗せるが、モロッコなどではラバーブのように立てて持つ。奏法も西洋式と基本的には同じだが、いくつかの特色がある。運弓はスピカートを多用し、独特の優雅なビブラートをかける。ポルタメントや装飾音を多用することも特徴的である。

CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」ライナーノートに加筆訂正。写真はドイツ製の普及品。松田嘉子所有。


ヴァイオリンの音を聴く(0'30")
演奏 : ナビル・ザミート(CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」より)

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リク写真
リク

リック、レク、ラクなどとも言う。シンバル付きのタンバリン。チュニジアではタールと呼ばれる。打楽器の中でもおもに古典音楽に用いられ、オーケストラではリズムの中心的存在である。小中規模の典型的アンサンブルにおいては、ただ一人のリク奏者が打楽器部門を受け持つことが多い。枠は木製または金属製で、魚の皮かまたはプラスティックの皮を張る。木枠に魚(おもにエイ)の皮を貼り付けたタイプのものが伝統的で、音色も上品で趣があるが、湿度変化に弱くピッチが下がりやすいため、今日では使用される機会は少ない。代わって、ボルトで皮の張り具合を調節できるプラスティック・ヘッドのタイプが主流を占める。サイズは直径22cmが基本で、このタイプでは他に23cm、24.5cm、26cmなどとあり、エジプトでは24.5cmが現在の主流である。またチュニジアの伝統的なリクに、小振りで真っ赤な枠に、鋲などで装飾した華麗なものがある。

皮部とシンバル部の両方を叩いてリズムパターンを構成する。奏法としては左手を中心に両手で楽器を支え、シンバルが鳴らないようにやや前傾した状態で持つ「マクフーラ(閉じた)」と、左手だけで垂直に持ち、シンバルが鳴る状態の「マフトゥーハ(開いた)」の二つに大別される。またボディ自体を振る「マルワハ(扇風機)」という華やかなテクニックがそれぞれにある。
リズムとしては、皮部を叩く第1アクセント「ドゥム」、リム部を叩く第2アクセント「タク」、タクにおいて皮の中心近くを叩く奏法(サク)、その他多彩な奏法がある。またアクセントのない部分を「エス」と言うが、休みではなく細かいリズムで装飾する必要がある。リズムを歌うときに「ドゥムラカラカドゥム」というふうに言うが、この「ラカ(ラク)」は「エス」の部分の音であり、この楽器の呼称の由来でもある。

CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」ライナーノートに加筆訂正。写真は伝統的なエジプト製で、枠に象嵌がある。竹間ジュン所有。


リクの音を聴く(0'30")
演奏 : ズバイル・メッサイ(CD「ヴァリエテ・ミュージック・アラブ」より)

大阪日日新聞・日曜朝刊文化欄《楽喜》2003年6月8日 リク編(竹間ジュン)

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ダルブッカ写真
ダルブッカ

ダラブッカ、ダルブカなどとも表記。アラブ音楽の代表的な打楽器のひとつ。エジプトではタブラと呼ばれる。胴は陶製または鋳物で、動物や魚の皮またはプラスティックの皮を張る。素焼きの胴に魚(おもにエイ)の皮を貼り付けたタイプのものが伝統的で、深みのある音色を持つ。ただし、湿度によるピッチの変化が大きいので、使い勝手はあまりよくない。演奏中の皮の張りを保つために、電球を胴の中に入れるケースもある。一方鋳物にプラスティック・ヘッドのタイプはクラシカルからポップス、ダンス音楽など幅広いジャンルで用いられ、ピッチの変化もないのでとても便利である。また最近はソンバティと呼ばれる大きめのタブラが流行している。

 奏法としては、膝の上に抱え、スティックなどは用いずに、両手の指を使って演奏する。皮部を叩く第1アクセント「ドゥム」、リム部を叩く第2アクセント「タク」、タクにおいてより中心近くを叩く奏法(サク)、その他多彩な奏法がある。

写真はアルミ鋳物製の現代的なエジプトタイプ。のみやたかこ所有。








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